2008.05.19

じつは六日前にちょっと事件があった。と大げさに宣言してみても何かと言えば猫のことで、一度途中まで日記のための文章を書きかけたが、あまりのアドベンチャーに疲れてしまい、書き上げられなかったのだ。

テラスに出てみると、子猫が僕の背丈より高いブロック塀に登っていてびっくりした。母猫も塀の上にいるが、これはきっと猫として生きていくための当たり前の技能を身につける教室なのだと直感した。茶色い一匹は飛び降りて物置の下へ飛び込んだのが見えた。臆病な方の薄茶はどうしていいかわからず塀の上でおたおたしてる。白いのはどこへ行ったかと目と耳を凝らしてみると、母猫がそわそわしてるので塀の向こうを上からのぞくと、小さいのが一匹草むらの中からこちらを見上げてミャアミャア鳴いていた。飛び降りたのか落ちたのか、とにかく戻れないのはすぐにわかった。向こう側から登れないのにこちらから可能だったというのは、たぶん側にある金木犀をよじ登ったからだと思う。

裏はマンションの駐車場で、僕が行っても入ることは容易にできる。ただ行ったからといってすぐに捕まるニャンコじゃない。しばらくマンションの陰に隠れて観察したが、母猫が何度も塀に登るデモンストレーションを無駄にくりかえしていた。これなら登れるかと、ウチから立て簾を持って来て斜めに立てかけたりしたが、全く見向きもせず、刺激したくはないと思いつつもしょうがないので強引に捕まえにいくことにして壁際に追いつめ、指先が子猫の首にあと4センチというところで勢いつけて逃走。と思ったらちょっとした隙間から地下に落ちた。

ここはコンクリートの縦穴に二段ベッド状の機械が上下するタイプの駐車場で、穴の深さは二メートルくらいか。車をのせるための鉄板のまわりのわずかな隙間が子猫の頭を通してしまったのだ。大きな機械が車をのせて動くので非常に危険だし、そうでなくても餌も水もないし陽も当たらないこんな場所、このままでは死ぬのを待つしかないのは明らかだ。ここの大家はわかるが数日前からずっと留守。マンションの住人に訊いてみても埒開かず。子猫の心細くか細い声を聞きながら動きあぐねていたときに、駐車機械の会社の電話番号を発見。これしかないので電話した。数十分後にその人は車で来て、軍手をはめて地下へ入っていった。少ししてつかまえて、地上へ放り投げたがなぜか子猫は再び地下へ飛び込む。もうわからんけどたぶんパニックだ。同じことを3回繰り返したあと、最初に落ちたのと同様の隙間に落ち込んだが、今回の隙間は前回より狭かったらしく頭が通らなくて、前足の先と頭だけ出してあとは地下にぶら下がった干し物のような状態が出来上がった。僕は用意していた虫取り網を持って地下へ入り、業者の人に猫を落としてもらって受け止める。虫取り網で猫なんか受け取るもんじゃない。重さで偉いことになってる。はは。

そんなわけで子猫は再びうちにもどったが、翌日から急に4匹の態度が変わる。これには驚いた。あれほど警戒して近くに寄らなかったのに、なぜかじわじわとにじり寄ってくる。僕が庭で何かしていると、一定の距離をとったまま座ってじっとこちらを見つめている。塀に登ることを覚えてから彼らの気分がころっと変わったか。それとも前日の僕の働きを認めたのか。なんにしろ、ちょっと違う関係になっていきそうな予感はあった。

で、その翌日(四日前)気が付いてみると子猫が庭に一匹もいない。あまり気にせずにいたが、どうも帰ってくる様子もない。母猫だけがときどき戻って来てはひとりでまどろんでいる。考えてみたら塀に登っていたのは巣立ちをしようとしていたのかも。そういう気がする。猫の生態については何も知らない。でもあれから一度も子猫たちを見ていない。今後どうしようかと考えていたが、そういう心配はなくなったのかもしれん。しかし突然いなくなられるとなんだか子どもに家出された親みたいな気分だ。どこにいるのか手紙か電話だけでも、と訴えてみても無駄なのだ。

おしまい(?)

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